公益財団法人三島海雲記念財団

Mishima Kaiun Memorial Foundation

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三島海雲学術賞フォローアップインタビュー

これまでの三島海雲学術賞受賞者の方に、ご専門分野や受賞研究、最近のトピックスなどをお聞きするシリーズです。今回は2017年度(第6回) 受賞 人文科学部門で受賞された内記 理先生です。

ガンダーラの歴史と文化の研究を通じて、雄大な文化のつながりをみる内記 理
京都大学大学院 文学研究科 附属文化遺産学・人文知連携センター 助教

ガンダーラの歴史と文化を私達が知る意味

私が「パキスタンとアフガニスタンの歴史を研究している」と申しますと、多くの人が、「どうしてそんなに遠くの地域の研究をしているのか」とおっしゃいます。
パキスタンとアフガニスタンは日本からは随分遠方にあり、イスラーム教という多くの日本人にはまだ馴染みの薄い宗教が信仰されている国です。私達日本に住む者にとっては、かかわりの薄い地域のようにみえます。

しかし、歴史を紐解くと、古代において「ガンダーラ」と呼ばれたこの地域の歴史や文化は、日本の文化の形成に大きな影響を及ぼしています。なぜなら、そこで繁栄した仏教文化が、遙か東方の日本にまで到達したからです。
奈良や京都、あるいは、皆さんがお住まいの地域の仏教寺院にある仏像を思い浮かべてください。この仏像なるものがどこで生まれたかと言えば、まさにこのガンダーラにおいてであったと考えられています。

日本の文化を理解するためには、そこに深く浸透している仏教文化とは何なのかを把握する必要があり、そのためには、その源流を遡ってガンダーラの文化をも把握する必要があるのです。

ガンダーラの仏教文化を知るための基礎研究

ガンダーラにおける仏教文化がどのようなものであったかを知る上で、大変有用な資料があります。ガンダーラ彫刻と呼ばれる、その地域で作られた一群の仏教彫刻です。
そこに描かれた図像を細かく分析することにより、私達はガンダーラで栄えた仏教文化の姿を垣間見ることができます。

ところが、ガンダーラ彫刻についての勉強を始めた際、私は大きな壁にぶつかりました。それは、それぞれの彫刻がいつの時代に作られたものであったかがよく分かっていなかったことでした。
この問題が解決されなければ、私達が彫刻を眺めたところで、それがいつの時代の仏教文化の姿を私達に伝えているのかは分からないままです。

その課題を解決するために、彫刻を様々な側面から眺め、また、彫刻以外の資料も幅広く取り上げて分析しました。
ガンダーラの仏教文化を知るためにおこなった基礎的な研究が、栄誉ある三島海雲学術賞の受賞につながったことは、大変光栄なことでした。

仏教文化の東漸の過程

私の研究は、日本の文化を大陸の文化とのかかわりから理解しようとするものです。ガンダーラの文化をある程度把握できたからと言って、その結果に甘んじることは私の本意でありません。

ガンダーラと中国の文化のつながり、さらには中国や朝鮮半島を通じた、ガンダーラと日本の文化のつながりにまで議論を波及させなければ、自身の研究の目的を果たしたことにはなりません。

現在は、ガンダーラの仏教文化がどのような歴史の文脈の中で、険しい山脈地帯を越えてタリム盆地(現在の新疆ウイグル自治区)へ到達したか、また、中国において仏教文化がどのように展開したか、といった課題に取り組んでいます。

ガンダーラの西と東

ガンダーラの歴史や文化の勉強を始めると、視野はさらに広がります。なぜなら、ガンダーラの文化が形成される過程においては、周辺の文化だけでなく、西アジアや地中海地域の文化が多大な影響を与えたことが分かってくるからです。

つまり、ガンダーラの文化を通してみることで、日本の文化はさらに西方の文化ともつながりをもつことが分かってくるのです。

今後も東西文化交渉の歴史の解明を通じて、人の知的好奇心を刺激するような議論を提示して参りたいと思います。

2022年04月06日

内記 理
京都大学大学院 文学研究科 附属文化遺産学・人文知連携センター 助教

2013年 京都大学文化財総合研究センター 助教
2015年 京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了 博士(文学)
2019年 京都大学大学院 文学研究科 附属文化遺産学・人文知連携センター 助教